囀石

吾妻郡伊参村大字大道新田の西南畑の中に、二間二間に三間位の三角の形をした一つの大きな石がある。この石は所謂吾妻の七つ石の一つで囀石と云つて有名な石である。昔、中国のもので親の仇人を討たうがために國々を股にかけ、仇人のありかを尋ね歩いた一人の男があつた。彼れは上野の國へも足を入れ、或る日のこと大道峠へとさしかゝつた。彼が峠へさしかゝつたのは、日もくれぐれのことであつた。足にまかせて峠を登つて行つたものゝ、いつか日は傾きつくして、あたりには暗の戸張りがおろされた。夜に入つてはどうしようもない、まゝよ野に伏し山に寝ね、雨にも露にもうたれ慣れて居るこの身、恰好なところがあれば何處でもいゝ、一夜を明かさうものと、月の明かりにあたりを眺めた。そのとき、彼の目に這入つたのは囀石である。ここ恰好なところと彼れは其の岩の下に立ち寄り、着て居る茣蓙を延べ敷いて褥とし脊なる荷物を枕にし、笠を屏風に青天井を眺めつゝも白川夜船と寝入つた。彼れが眠りは俄に破られた、それは枕のあたりで人の聲がしたからであつた。それを聞いた彼れは驚いて跳ね起きた、そうしてあたりを鵜の目鷹の目で眺めたのであつたが、人子一人も居ない。月は晃々として照りわたり、木の蔭長く地にひいて夜は森々と更けわたる、唯梟の鳴く聲が遠く聞えるばかり、人のけはひ人の影もない。不思議なことがあれはあるもの、ともすれば狐か狸のいたづらか、憎つくき奴と獨りさゝやきながらも、尚耳を澄まし、目を見開いてあたりに心を配つて居ると、今度は石の中にあたつて人の聲がする。彼は一層聞き耳を立てた、すると、それは自分が年月心にかけ、神や佛に願かけて尋ねまわつて居る仇人のことを語つて居る。扨ても不思議、此の石は中が虚空で人でも住むか、それにしても自分が仇人とねらつて居るものゝ名や、ありかをなんど、この邊に知つて居ようものはない筈、不思議と云えば不思議の極みと、彼は殆んど氣を失ひ、しばしぼんやりとして居たが、暫くして自分にかへり、屹度�瀰任��了屬鯲銈譴鵑廼気悗童發譴燭冒螳磴覆ぁ⇒④蠧颪籃曚犬韻覆笋伴蠅鮃腓擦突④蠧颪�蝓△泙戚襪呂△韻呂靴覆�弔燭里任△弔燭��召里海閥気┐蕕譴燭箸海蹐惴�韻独�④掘△修Δ靴銅麋�茲�垓饌彭靴凌討竜悗鯑い弔燭髪召奸�修譴�蕕髪召佞發痢△海寮个呂靴个靴仗邑譴鰲い靴拭�修譴排鸚个般召鼎韻蕕譴憧髑鵑覆發里砲気譴撞錣燭�⊃襪卜た佑和兇良垰弋弔防櫃譴鬚覆靴討�∪个両紊望�気甫�鯲�董�鸚个凌世髪召弔匿鬚痺�蕕譴拭�箸海蹐��兇慮絨燭詛�琉燭詭襪里海函△海里箸海蹐鯆未蠅�気弔針民曚領洪佑��坩佞棒个林鵑鯤垢①�辰い得擇弔討�気弔拭�修里箸㍉个粒僂論擇衢遒箸気譴拭�修Δ靴燭海箸�△弔討�蕁△發ζ鹽戮飯鸚个林鵑襪髪召佞海箸呂覆�覆弔討靴泙弔燭髪召ΑＳ鸚个凌世例�蓮∈Ｆ噂蠅侶�鄂声劼龍㌃發砲△襦�

　　　　　　　　　　「傳説の上州」　　　　　　　　　中島　吉太郎　　　　　中島吉太郎遺稿刊行会　　1932年

中之条から県道153号中之条湯河原線を進み、大道峠まではまだ間がある、此の処だけ道幅の
狭くなった道路に懸った案内標識の左手上に、この石は在りました。石上堅「新・石の伝説」や
下に掲げた中島吉太郎の本では伊参村の大道新田の「畑」や「西南の畑」の中に在るとそれぞれ
なっていますが、この石は県道と非住民家との間の傾斜地にあり、畑だったという様子は少しも
感じられません。
また中島本では「囀石」と記載、石上本では漢字のふりがなを「さえずりいし」としていますが、私が近くの「栃窪」や「富澤家住宅」で所在を聞いたところ両所の人とも「しゃべりいし」と云っておられました。「伝説」や「物語」として文字に置き換える段階で素養のある人が優雅な文字を採用したというところでしょうか。いずれにしてもこの道が「三国街道」の脇往還として、思いの外の通行があったことは間違いないように思われます。